2017年10月29日日曜日

夜間飛行 歌詞解釈〜「偶然は愛のようにひとを束縛する」






※今回の記事はいつも以上に思いついた言葉をバーっと並べたため、かなりまとまりがなくて読みづらいかと思いますのでご了承ください


ポルノグラフィティのニューアルバム「BUTTERFLY EFFECT」、アルバム全体の感想を前に語り倒したい曲の感想を長々と書いてきた。

今回も同じく語り始めると終わらないぜという曲を紹介しよう。今回はM9"夜間飛行"である。

アルバム曲でいえば初めて聴いたときにあまりの曲の美しさに打ちのめされた曲である。
最後のサビのブレイクとかもう、グッときすぎて心臓止まるかと思った。

歌詞の言葉選び、情景描写、美しいメロディ、カースケさんと寛雄さんのリズム隊、そしてそれを見事に歌い上げた岡野昭仁のヴォーカル、これらを仕上げきったアレンジの宗本康兵の手腕控えめにいって完璧である。

僕のツボをグイグイと押してくれる曲で、こういう曲はどれだけの回数を聴いてもうっとりとしてしまう。






これぞ新藤晴一という歌詞である。

歌詞中、場面場面で主人公である私のあらゆる感性が刺激される。


肌に触れる手や、なぞる指先。さらにはその腕にはめられたままの腕時計で触覚を。
見つめてしまう横顔、美しい瞳で視覚を。
煙の薫り、香るパフュームで嗅覚を。
そして君の言葉、時計の針の音で聴覚を。


特に聴覚部分の描写が秀逸である。
2番サビの歌詞なんかは、もう何度聴いても鳥肌が立つ。

腕時計は《音もなく時を刻んでいるの》と表されてされている。本来腕時計は音を発しないし、腕時計を外さない理由はなんだろうか。

それは腕時計を外す時間すら惜しいことだ。つまり、触れたい気持ち、そしておそらくそれよりも、この時間はそう長く続けられないという意味もある。

だから、主人公の耳にはカウントダウンのように聴こえない秒針の音が聴こえる。
この感覚はさながら"Part time love affair"である。

それだけ全身全霊で君を受け止めたいという主人公を描きながら、気持ちを少しずつずらしていき、最後のサビで完全にそれを外してくるのが、この歌詞の最も恐ろしいところだ。

直接的な言葉は《君はいない》くらいで、他にそれを用いずに別れを感じさせる歌詞、新藤晴一という人はまだまだこんな歌詞を書いてくるのだから恐ろしい。

たとえば《交差する翼の夜間飛行》は、おそらく交わしたそれぞれの腕のことだろう。もしかしたら「Don't wanna cry」と云いながら涙を拭おうとした
君の腕に私は手を伸ばしたのかもしれない。
同時に、交差するという行為は2人の向かう方向が決して同じ方向を向いていないということも示している。












君について、どんな人物像であるか僕はついぞ辿り着けない。
どこか女性っぽさすらも感じるが、果たしてどんな人なのだろうか。

面白いと思うのが、これまで新藤晴一がこういった歌詞を書く時には大抵「あなた」と表記されるけど、"夜間飛行"では「君」と表記されている点だ。

シガレット、腕時計、パフュームと大人を象徴するアイテムを身につけているが、「月が綺麗」なんていうほど君には無邪気さすら感じられる。これがどこか借り物の言葉ぽくて、「覚えた言葉」であるように聴こえる。

「月が綺麗」というフレーズはいうまでもなく、漱石の翻訳のエピソードにも掛けてあるのだろう。
「I love you」を日本語訳したらという有名なエピソードだ。

君は私の気持ちに気づいている。全て見透かして分かっていながらも、それに応えることはない。もしかしたら私の気持ちに本当は応えたいのかもしれない。しかし、そうはしない。
そこの絶妙なバランス感覚が「月が綺麗」という言葉に込められてるとしたら、これほど切ないものはない。


そんな辺りのことから、僕は君とはどこか異国の人のような感覚を抱いた。

私の気持ちをよそに、君は私を置いて飛んでいってしまう。私は決して飛べないままだ。
別れの時を音もなく刻み続ける腕時計は、逢瀬の時を削る。

そして、最後に君は去ってしまう。決して私好みではない香水の残り香を残して。

青く陰る瞳からもどうしてもそっちに思考が傾いてしまう。
この青い瞳は最初のサビの紫煙と対になるような気がして、紫の煙から情熱を表す赤の色が失われてしまったような感覚で、だからこそ、その青にはを宿している。

連想ゲームのようになってしまうが、紫の煙について。そのまま紫煙の意味でもあるが、今回のアルバムは過去のミュージシャンへのリスペクトが要所要所に忍ばせてある。
そうした時に紫の煙といえば、まさに「パープル・ヘイズ」ではないか。

紫煙であればタバコであるが、パープル・ヘイズではドラッグの隠語にもなる。
直接的なLSDのことではなく、それほど君との一時は幻覚的、幻想的な時間で魅力的であるということだ。

そうした時に《FLY》という言葉は何を示すのだろう。
飛ぶことのできない私は、君の言葉を受けてようやく飛び立つことができる。

《I can fly dark sky》にもあるように、先の見えない暗闇の夜間飛行である。その空はいない君の心の中かもしれない。

このフレーズを聴いて、ある曲のあるフレーズが思い浮かんだ。

《私を強く引き寄せる力は今/暗い闇の底に待つ地面でしょうか/息をのんで 目を閉じて 飛び出してく》
"グラヴィティ"

暗い闇になぜ飛び立てるのか。それは《この体も この胸もただ あなたに惹かれ》ているからである。

私を引きつける重力さえも飛び越え、私の気持ちはあなたへ惹きつけられる。

しかし、そこに君はいない。

一線を越えたかった主人公と、越えなかった君。その対比も的外れな言葉や、私好みじゃないパフュームに込められている。スレ違いであるはずなのに、私はそれすらも肯定する。それでも、と涙を流す。

そんな頬をなぞる指先、あまりにも優しく、あまりにも残酷な時間。

それでも尚、最後は凛としている私の姿。その願いはあまりにも《青い期待》なのかもしれない。
言葉になくとも《夜空を焦がして 私は生きたわ恋心と》という想いであるかのように。


「ひとは一度なにかを選び取ってしまいさえすれば、自己の人生の偶然性に満ち足りて、それを愛することができる。偶然は愛のようにひとを束縛する。」「夜間飛行」サン=テグジュペリより



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